治安
パキスタン国内の旅行について、「治安はどうなのでしょうか?」といった質問を受けることが多いが、それに対する答えは難しい。まず、何をもって「治安」という言葉を使うかは、その人の経験や感性によって大きく隔たりがあるからだ。
現在、日本の外務省は「海外安全ホームページ」において、パキスタン国内の旅行について「危険情報」を掲載している。地域別に危険情報が書かれてあるのだが、たとえば大地震が起きたアザド・カシミール州については、インドとの国境線に当たる「管理ライン(LOC)」付近の記述は、「退避を勧告します。渡航を延期してください」とある。その理由は、いまだインドとの領有を争う紛争地であるため、というものである。
たしかにこのLOC付近というのは、パキスタンが独立した1946年以来、ずっと紛争の種になっていたところで、現在も国連が監視する「暫定的な国境」ではある。何度か印パ間で戦争も起きている。パキスタンのことを何も知らない人がこの記述を読んだら、「治安がすごく悪いところだ」と感じるだろう。
しかし現実には、地震が起きる直前の2005年に、印パ間の対話が急速に進み、その後この地域の国境が次々に開放され、今では5箇所が開いて両国を結ぶバス便が運行されている(利用は両国のカシミール人のみ)。
また地震前には、この地域へ外国人が入るのは至難の業で、許可証の取得がたいへん難しかった。が、地震後は、パキスタン政府当局もさすがに外国のNGOや国際機関に門戸を開かないと復興ができないと判断したためか、その許可証はなし崩し的に不要になってしまった。すでに大勢の外国人がこの地域を訪れたが、そこで治安に関わるトラブルがあったという話は寡聞にして聞かない。
「テロが怖くて……」という人も多いが、テロはなにも中近東でのみ起きているわけではない。ロンドンでもマドリードでも起きている。日本でも起きる可能性は大いにある。
逆に実際にパキスタンを旅した人なら、どこへ行っても歓迎され親切にされることから、アメリカのいう「テロリストたち」という言葉の意味を考え込んでしまうだろう。
また盗難やスリといったいわゆる金品めあての犯罪に関しては、たとえば人ごみの中を歩くときなどはもちろん注意を要するし、現金を所持している外国人を狙った悪人も言葉巧みに近寄ってくるかもしれないが、それは別にパキスタンだから特別危ないというものではない。どこの外国に行ってもこうしたトラブルはあるわけで、人通りのない暗い夜道をひとり歩きしたり、信用できなさそうな人には安易についていかないなどの「フツーの」注意ができる人なら、どこの街や村でも十分に一人旅が可能な国である。
ちなみに私はこれまで20回以上、期間にするとおそらくトータルで2年以上はパキスタンに滞在した。街も村も相当にいろいろとほっつき歩いてきたが、いまだ一度も盗難などの被害やトラブルにあったことはないことを書き添えておく。

